9月2024
ブルベ挑戦(当日編)
2024年9月17日
ブルベ当日、朝4時に家を出発して西神戸のスタート地点に向かいます。これから少なくとも2500kcal以上はエネルギーを消費すると思われたので、まずは車の中でおにぎり2個とバナナ2本分の栄養の入ったドリンク、合計700kcalで腹ごしらえします。
朝6時半にはすでに30名程の猛者達がスタート地点に集まっていました。どの自転車も装備は少なめで、やはり私の自転車が一番重そうです。ブルベ最短の200kmの場合、逆に装備は少なめが良いようです。
ミーティングが始まりました。主催者の方が初参加者を尋ねたところ、5,6名程の手が挙がり少し安心しましたが、これから始まる200kmの自転車旅は初めて行く土地ばかり。道を間違えず走れるのか、猛暑の中で最後まで体力が持つのか、自転車がトラブルを起こしたりしないだろうか、果たして明日の診療(仕事)に間に合うのかなど不安いっぱいです。
朝7時、ついにブルベが始まりました。車検が済み次第、皆それぞれが思い通りに出発しても良いのですが、とりあえず真ん中付近でスタートすることにしました。前の数人の集団について行こうとしましたが、どうやら巡航速度が違いすぎるようで、早速遅れ始めます。
スタート早々一人旅になるかと思いましたが時々赤信号で停止するので、なんとか34km先にある最初の通過チェックまでは他の参加者を見ながら走ることができました。しかしこの最初のがんばりが後々、体に響いてくるとはまだ知る由もありません。
ブルベでは通常のPCとは別に通過チェックと呼ばれるチェックポイントがあるようで、詳しい違いは知りませんが、今回の200kmブルベではゴールを含んだPCが4カ所、通過チェックが2カ所あり、合計6カ所でコンビニレシートをもらってくる必要があります。公式HPで公開されているマップを基に自分なりの走行計画を立てましたが、果たして計画通り行くのでしょうか?
西神戸をスタートして西に向かい、加古川を渡って姫路城が遠くに見えてきた頃、最初の通過チェック(34km地点)のコンビニに到着しました。ここまで約1時間半、8時30分現在の気温はまだ快適でしたが、今日はあと何時間自転車に乗っているのだろうかと思いながら多めの水分補給(スタートから合計1L)を済ませます。大窪寺サイクリングの反省を踏まえ、熱中症予防に今回は毎回多めの水分を補給する計画です。ハンガーノックで力が出なくなると困るので、ジェルでの栄養補給も行います。他の参加者の中にはかなりたくさん固形物を食べている人もいましたが、恐らく後半になれば胃が固形物を受け付けなくなると思われるので、消化に時間のかかる固形物は今のうちに食べておくのが良いようです。
姫路の最初の通過チェックを出発したら、ここからは市川を遡りながら北上しPC1(61km地点)のある神河町を目指します。川沿いだから楽勝だと思っていましたが、いきなり小さな山を越えるアップダウンがあり、地味に体への負担が掛かります。その後延々と続く高速道路沿いの直線を走り、続く川沿いの国道に入った頃、左膝に若干の違和感を感じ始めました。まだ60kmも走っていないのに、これはまずいと思い、できるだけ左膝に負担を掛けない走りに切り替えましたが、速度が低下したことでPC1到着時には、すでに当初の計画より30分も遅れていました。
今回のブルベでは制限時間13時間30分のところを12時間30分で完走し、1時間の貯金が残せるように計画を立てていました。ヒルクライム(山登り)にかなり時間を取られるため、比較的平坦の多いPC1(61km地点)までは早めに行ってできれば時間を貯金したいと考えていましたが、前半まだ3分の1も走っておらず、本格的な山登りも始まっていないのに膝痛の不安も出始め、まさに前途多難です。
PC1を過ぎると、71km地点に最初の難関、高坂トンネルの上り(標高約390m)が待ち構えています。ここで相当体力が削られると予想していたので、固形物が食べられるのはおそらく最後と思い補給食はおにぎりにしました。PC1出発後は東に進路を取り、70km先の丹波篠山市の東端付近を目指します。まずは市川の支流である越知川(おちがわ)を遡ります。のどかな風景で景色を堪能するには絶好ですが、早くも橋の向こうに激坂が見えてきました。いよいよ高坂トンネルへの上りが始まります。平均斜度は7%程度のようですが、それ以上に斜度があるように感じます。いつ終わるかも分からない坂道を進む不安と、すでに参加者が誰も見えず孤独を感じながら山道を登ります。トンネルまで来れば後はしばらく下り坂で休むことができます。なんとかトンネルまで辿り着き、スピードの出しすぎに気をつけつつ山を下りました。下りの途中、81km地点に道の駅「山田錦発祥のまち・多可」が見えてきました。日本酒好きなら一度は行ってみたい場所だと思いますが、今の私にはお土産を持つ余裕も無くそのまま通り過ぎます。
山を下ると西脇市の盆地が広がってきました。町まで来るとと少しほっとします。PC2(93km地点)のローソンに到着しましたが、すでに周りにブルベ参加者は誰もいません。やはり高坂トンネルのヒルクライムで懸念していた左膝痛は悪化しており、痛み止めを飲むことにしました。当初の計画通りスポーツ飲料で水分とミネラルを定期的に補給しますが、ほぼ食欲は無くなっており、なんとかヨーグルトドリンクでしのぎます。
PC2出発後は第二の難関、しら坂トンネル(標高329m)までのダラダラと長いヒルクライムで徐々に体力を削られつつ100km地点の上鴨川の交差点に到着。やっと半分まで来た安堵感とともに、ここでも誰にも会わない不安感が混ざった奇妙な感覚を覚えます。ここから東へ残り31km、丹波篠山市の2つめの通過チェックを目指し国道372号線をひた走ります。この道は「デカンショ街道」と名づけられています。変わった名前なので丹波篠山市のHPで「デカンショ」の語源を調べてみましたが、この言葉に特別な意味は無く、掛け声の様なものだそうです。
途中、JR古市駅の近くで少し迷いそうになった時、ようやく他のブルベ参加者の方に出会いました。同じ目的の人に会うとなんだか嬉しくなります。お互いコースが間違っていないか確認し再出発。しかし出会ったのもつかの間、すぐに離ればなれになってしまいます。この日の気温は最高35℃、猛烈な暑さの中、デカンショ街道をひた走ります。この付近は比較的平坦のはずですが、この頃時速はすでに12kmまで落ちており、まったくペースが上がりません。制限時間内にゴールできないかもしれない不安がよぎります。
炎天下のなか、もう平坦でさえ少し休まないと進めなくなっていましたが、満身創痍でなんとか丹波狭山市東端にある2つめの通過チェック(131km地点)に辿り着きました。水分補給しなくてはいけませんが、すでにスポーツ飲料でさえ飲みたくありません。究極的に体が欲しがったのは、ふつうの水でした。水ならまだまだ飲めそうです。この時点で予定より36分遅れ、16時の出発時には残りの距離は70km、残された時間は4時間30分。元気ならなんてことない距離と時間ですが、暑さでバテた体で最後まで走りきれるのでしょうか。
なんと、2つめの通過チェックのコンビニには他のブルベ参加者がまだ数名残っていました。制限時間から考えると、もう後から来るブルベライダーはいないでしょう。仲間が増えた感じで少し元気をもらい出発します。次は西に少し戻って南下し、三田市を目指します。途中の140km地点には第三の難関、平均斜度6%の城東トンネルの上り(408m)が待ち構えています。残った力を振り絞り、足がつりそうになるのをこらえ、このラスボスともいえる上り坂に必死で挑みましたが、さすがは今回のブルベの難所、疲れた顔を上げると目線の先に新たなつづら折りが姿を見せました。この瞬間、絶望感に襲われます。ここのつづら折りは第一の難関、高坂トンネルに勝るとも劣らない斜度10%以上はありそうな激坂でした。
時刻は16時30分、日も陰り始めた頃、最終グループのブルベライダー4人は私より先にこの激坂に挑み、程なく視界から消えていきました。心拍数は160以上で限界となり、なんとか踏ん張っていた左膝も痛みのピークを迎え、もうこれ以上ペダルを回す力は残っていません・・・
ついに自転車から降りてしまいました。残り4時間で60km走る体力は無さそうです。リタイヤが頭をよぎりました。ここから考える事は、右も左も分からない薄暗い山の中、果たして今夜中に無事自宅まで帰ることができるのだろうか、という事だけした。
リタイアするにしても駅のある三田市の市街地まで、まだ20km以上山道を自走しなくてはなりません。つづら折りを自転車を押しながらトボトボと歩いていると、遠くにトンネルが見えてきました。トンネルは峠では一番高いところにあることが多く、この城東トンネルも今回通過した他のトンネル同様、峠付近に作られていました。「あそこがこのコースの最高到達地点か、あのトンネルさえ抜ければ、もしかしたら後は下るだけかもしれない。」
再び自転車に乗り、ゆっくりとペダルを回してトンネルを目指しました。普段トンネルの中は暗くて狭くあまり好きではありませんが、この時だけはうれしさがこみ上げてきました。やはり、トンネルを過ぎると長い下りが待っていました。PC3(155km地点)はこの下り基調の途中に存在します。17時15分、ついにPC3に到着しました。先程一緒だったブルベ参加者もまだ数人います。あきらめていたブルベ完走の糸はまだ繋がっていました。
幸い気温が低下してきたこともあって再び元気を取り戻してきましたが、今の膝の調子では今後も速度を上げることはできないと思い、ここでは殆ど休憩を取らずに水分補給だけ行い出発です。PC3を過ぎると、すぐに小さな登りがいくつかあり、容赦なく残った体力を奪います。しかし三田市の市街地に入ると残り30km、ゴールが現実味を帯びてきました。ここで日没、2灯合計1200ルーメンの強力ライトだけが元気に前方の暗闇を照らします。
神戸JCTの真下をくぐり抜けた頃、ここで左膝をかばい負担を強いられていた右膝もついに悲鳴を上げ始めました。この先、劇坂は無いものの、まだ数カ所の上りが残っています。再度痛み止めを内服して走破することにしました。
もうすぐ185km地点、道の駅「淡河(おうご)」があるので少し休憩しよう。今は神戸市北部の山陽自動車道沿いを西に走っているはずですが、暗くてどこを走っているのか見当も付きません。夜間走行は細心の注意を払いつつ走りますが、あんなに昼間暑かったのに夜になると丁度良い気温になり、虫の鳴き声がうるさいくらい聞こえてきます。そういえばこのブルベは秋の開催だったと初めて実感しました。
時刻は19時を過ぎており、道の駅は真っ暗でした。どうやら17時閉店のようです。しかしゴールまであと15km、少々のことでは動揺しません。制限時間もあと1時間程しか無く、もう休む事もあきらめペダルを回し続け、最後の上り笠松峠を目指します。
PC3(155km地点)出発から自転車を漕ぐこと約3時間、西神中央の高台の灯が見えてきました。ついにゴールに到着です。所要時間は13時間7分、予定より37分遅れですが、なんとか貧脚の私でも制限時間内にゴールできました。壮大な旅を終えた瞬間でした。走る前は長い時間、飽きてこないだろうか、今後の人生について自転車を漕ぎながらゆっくり考えようかなどと思っていました。しかし実際、考える事の殆どは膝の痛みをどうやって緩和しようか、制限時間に間に合うだろうか、道を間違っていないかといった、どう目の前の困難を克服しようかといった現実的なことばかりでした。
ゴールした後、ついに念願のブルベメダルを手に入れました。200kmブルベはブロンズメダルですが、なんだか自分のメダルはゴールドに見えました。近頃は毎日仕事や家事に追われ、生活が単調になって月日が経つのを早く感じるようになりがちですが、今回のブルベ挑戦を経て、仕事だけでなく趣味を生かし、以前の様に何か目標を持って生きていくことの大切さを再認識しました。
最後に、今回のブルベを開催してくださったスタッフの皆様には、この様な貴重な経験をさせていただき、心より御礼を申し上げます。